drakiti63の日記

私の人となり

韓国短編小説「夕立」最終話

少年は少女の家が

引っ越してくる以前から

既に

大人たちの話を聞いて

ユン・チョシの孫が

ソウルで農業の事業で失敗して

故郷へ

戻らなければならなくなった事を

知っていた

それが今度は

故郷の家まで

他人に手渡すことになったようだった






”何故か分からないけど

 私は引っ越してゆくのが

 嫌になったの

 大人たちのすることだから

 仕方ないんだけど・・・・”

前にはなかったことだけれど

少女の黒い瞳には

淋しそうな

光が漂った

少女と分かれての帰り道で

少年は独り言で

少女が引越しをするという言葉を

何遍も繰り返してみた

何それほど

残念でも

悲しいことでもなかった

けれども

少年は今噛んでいる

ナツメの甘い味に

気が付かないでいた





その日の夜

少年はこっそりと

ドクセおじいさんの家のクルミ畑に行った

昼に見ておいた木に登った

そして

目をつけておいた

枝に向かい

棒を振り下ろした

クルミが落ちる音が

やけに大きく聞こえた

胸がヒヤリとした

しかし

次の瞬間

大きなクルミよ

いっぱい落ちろ

沢山落ちろ

自分も知らない力に

引かれて

やたらに

棒を振り下ろすのだった





帰り道では12日目の月が

作る影だけを選んで踏んだ

影の有り難さを

初めて感じた

膨らんだポケットを

撫で擦った

クルミを素手で割っては

かぶれ易いというような話は

どうでもよかった

もっぱら

この付近では

最高といわれている

このドクセお爺さんのクルミを

早く少女に味見させなければ

という考えだけが

先走っていた





そうして

あっシマッタと思った

少女に病気が少し良くなったら

引越しする前に

一度小川の川辺に

出て来て欲しいという話を

しておかなければならなかったのである

馬鹿な奴

馬鹿な奴め

次の日

少年が学校から戻ると

お父さんが

外出用の服に着替えて

一羽の鶏を抱えていた





どこに行かれるのかと聞いた

その話には返事もなく

お父さんは抱えている鶏の重さを

計って見ながら

”これくらいなら

 いいだろうか?”

お母さんが袋を渡しながら

”もう何日も卵を産む

 場所を探していたの

 大きくはないけど太ってるでしょ”

少年が今度はお母さんに

お父さんはどこに行くのかを

尋ねてみた






”あそこの書堂谷のユン・チョシのお宅に

 行かれるのよ

 法事のお膳にでも

 置いて欲しいものですとね”

”それなら

 大きいのを一羽持って行けば

 あの色が混ざったの雄鶏を・・・”

この話にお父さんは

ホホと笑った後で

”こいつ

 だけどこれが実質肉がついてるよ”

少年は何となく怒って

鞄を投げて牛小屋に行き

牛の背中を一回

パシッと打った

牛のハエでも捕まえるように





小川の水は日に日に

渇いていった

少年は分かれ道の下の方に行ってみた

葦畑の先端から見る

書堂谷の村は

藍色の空の下

一層近くに見えた

大人達の話によると

明日少女の家が

陽平邑に引っ越していくというのであった

そこへ行って

小さな小売りの商売をすることになるであろう

ということであった






少年は思わず

ポケットの中のクルミ玉をいじりながら

片手でしきりに葦の花を

曲げて折っていた

その夜

少年は寝床についても

同じことを考えるだけであった

明日

少女の家が引越しするのを

行ってみようか

どうしようか

行けば

少女にあえるか

どうだろうか





そうしている内に

いつの間にか寝てしまったかと思えば

”ああ

 本当にこの世の中というものは……”

村に行ったお父さんが

いつ戻ってきたのか

”ユン・チョシの宅も

 もう終わりだよ

 あんなに多かった田畑を

 全部売り払ってしまって

 代々生活してきた家まで

 他人の手に渡したが

 また不幸にも若死にした子供の喪に服すとは・・・・”





ランプの燈の下で

針仕事の材料を

抱えていたお母さんが

”曾孫だといっていた女の子

 その女の子一人だけだったでしょう?”

”そうだよ

 男の子が二人いたのは

 幼い時に亡くしてしまって・・・”

”どうして

 そんなに子供に恵まれないのでしょうね”

”そうだね

 今度の女の子も何日も病気になっていたのに

 薬も十分に使うことも出来なかった様子だよ

 こんな調子だと

 ユン・チョシの家も

 代が途絶えたも同然だよ”





”・・・・・だけど本当

 このたびの女の子は

 幼いけど

 子供らしくないよ

 なあお前

 死ぬ前に

 こんな話をしたというじゃないか?

 自分が死んだら

 自分が着ていた服を

 どうしてもそのまま

 着せて埋めて欲しいと・・・・・”